2010年1月16日土曜日

異界との交信−身体疾患を持つ患者の体験世界

甲南心理臨床学会公開ワークショップのお知らせ

○講 師:岸本 寛史先生(京都大学医学部附属病院)

○日 時:2010年3月14日(日)13時〜16時30分

○場 所:甲南大学18号館3階講演室

○対 象:心理臨床、医療など対人援助に携わる方、または関連の大学院生で守秘義務を守れる方。(定員50名)

○参加費:5000円。ただし、甲南心理臨床学会会員および大学院生は4000円。
○申し込み方法:メールにてお申し込みください。件名を「ワークショップ参加申し込み」とし、①氏名、②所属、③連絡先をご記入のうえ、workshop@kacp.info 宛にお送り下さい。
(先日まで設置していたフォームからメールした場合に、うまく届かないことがあるようです。もし、数日経っても返信がないようでしたら、お手数ですが再度ご連絡ください)
○概 要:
がん患者は異界を体験している。それゆえ、日常的世界の物差しで接していると、がん患者の心から離れてしまう可能性がある(岸本、1999)。「異界」と いう着想はもともと、岩宮(1997)が、子供達が体験している世界を、大人の常識的な日常の世界とは違うという観点から「異界」と呼んだことにヒントを 得ているが、その背後には意識水準の変化があり、そこで語られる言葉もおのずと日常的な言葉とは異なったものになる。本ワークショップでは、事例を示しな がら、身体疾患を持つ患者の体験している世界を描き出し、どのような点に注意をしてやり取りをしていけばよいかを考える。



洞窟に入る
ある肺がん患者が絵画表現を通して自分を取り戻していく過程を示す。その表現の発生過程は、洞窟壁画に見られる表現と通じるものがある。表現のより古い様式、蒼古的表現様式について考察を加えたのち、洞窟の比喩を用いてがん患者の体験世界に迫る。

表現の衝動
ある全身性エリテマトーデスの患者の造形表現を示し、混乱して我を見失っていった状態からこちらの世界に戻ってこられるときに、表現への衝動に突き動かされて作られた作品について考察する。表現のきらびやかさにのみ目がいくと、その背後にある苦しみやつらさから目が離れてしまう。表現の背後にある衝動への配慮について述べる。

ことばの多声性
あるがん患者の語りなどを示しながら、それが持つ様々な響きに耳を傾けることで、関わりがより細やかなものになっていくことを示す。

医学的観点の相対化
がん患者の体験世界に迫るためには、医学的知識が不可欠であるが、そういった知識があるが故に関係を結べなくなるといったパラドックスも存在する。医学的観点を相対化することは容易ではないが、筆者にとってその重要性を教えていただいた白血病患者の治療過程を示して、考察を加えたい。

○ 講師紹介:
岸本 寛史(きしもとのりふみ)。1991年京都大学医学部卒業。内科医。同大学大学院医学研究科在籍中より「医療に おける心理療法的接近」をテーマに研究実践に取り組む。現在は京都大学医学部附属病院地域ネットワーク医療部副部長。主な著書に『癌と心理療法』誠信書房、『ナラティブ・ベイスト・メディスンの実践』(共著)金剛出版、『講座 心理療法〈第4巻〉心理療法と身体』(共著)岩波書店、『緩和のこころ―癌患者への心理的援助のために』誠信書房、訳書にボスナック『クリストファーの 夢』(共訳)創元社、ボスナック『ドリームワーク』(共訳)金剛出版、など多数。

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