2014年5月16日金曜日

甲南心理臨床学会第17回大会

甲南心理臨床学会第17回大会特別公開シンポジウム「心理臨床の基礎と訓練」(pdfファイル)は、会員でない心理臨床関係の方々にも公開されています。


Ⅰ.あいさつ

会員の皆様、いかがお過ごしでしょうか。私方、昨年度一年間、在外研究のためにドイツに滞在しておりました。いろいろと新鮮な体験もありましたが、逆に、懐かしい気持ちも体験しました。その一つは、読書習慣です。若者でも読書が余暇の楽しみ方の上位に位置し、本屋には、おびただしい数の新刊本が並びます。それも日本のように、新書中心の出版ではなく、文字がみっちり詰まった重厚な本がよく読まれているようです。日本が活字離れ先進国であるにすぎず、ドイツもいずれ活字離れが進むのかもしれません。子どもがゲームに熱中するのが問題になっていたり、スマホの普及も日本以上かもしれないところからすると大いにありうる話です。しかし、今現在の差異を体験したことで、活字文化を取り戻すことが私たちの大きな課題であることをあらためて認識できました。今が活字離れ先進国なら、この先、活字復活先進国にもなれるわけですから、読書習慣の復活を目指していきたいと決意を固めた(というとおおげさですが)次第です。 まだ帰国から間もないためこんな話になってしまいましたが、在外中に学んできたものをこれから日本で還元していきたいと思っています。今回は、復帰のあいさつで巻頭言に代えさせていただきました
会長 森 茂起

Ⅱ.第17回大会案内

下記の通り、甲南心理臨床学会第 17 回大会を開催いたします。今大会は、シンポジウムに成田善弘先生と横山博先生をお招きして「心理臨床の基礎と訓練」というテーマでお話しいただくことになりました。先生方のお考えをうかがうことのできる大変貴重な機会です。この機会をより多くの方と共有できるように、特別企画として甲南心理臨床学会の会員以外の心理療法家の方々にも参加の門戸を開くことになりました。チラシを同封いたしますので、職場、またはお知り合いに広くお知らせいただき、皆様お誘いあわせの上、ご参加ください。どうぞよろしくお願いいたします。 分科会では、さまざまなテーマについて事例検討が行われます。臨床スキルの向上のためにも、是非ご参加ください。なお、運営の都合上、分科会は受付での先着順とさせていただきますので、お早めにご来場ください。


●○ プログラム ○●


日 程 2014 年 7 月 13 日(日) 
◆受 付 10:00~ (18 号館ロビー) 
分科会 10:30~12:30 (18 号館)
シンポジウム 13:30~16:30 (1 号館 4 階 142 教室) 
総会 16:30~17:00 (142 教室) 
懇親会 17:30~(予約参加のみ) 

※今回は、分科会が午前、シンポジウムが午後となっております。 ※ランチセミナーは開催いたしません。昼食は各自でお済ませください。 ※研修証明書は総会後、配布いたします。

Ⅲ.分科会・シンポジウム紹介 

1.分科会

(1)「事例検討①」 (18 号館 3 階 講演室)

講 師 成田善弘(成田心理療法研究室) 司 会 森 茂起(甲南大学文学部 教授) 思春期以降、成人の患者に言語面接を行った事例について、検討します。患者の言動だけでなく、治療者の感じたことや考えたこと、そしてそれに基づいて、どう介入したかを述べて頂きたいと思います。そこから心理療法の過程で何が起こったかを明らかにしていきたいと思います。 事例提供者:高島光恵 ※先着 50 名まで(受付での先着順になります。)

(2)「事例検討②」 (18 号館 2 階 演習室 1)

講 師 横山 博(甲南大学文学部名誉教授・ユング派分析家) 司 会 徳岡香織 私はユング心理学、精神医学を専攻としていますので、コメントはその立場からになります。とりわけユング心理学はイメージを大切にします。人間のこころのうごめきはすべて言語化出来るとは限りません。文学や神話、昔話も文字で書かれたものの背後にそれに伴うイメージの世界があります。私は発表された事例を通して、そのクライエントの人生の物語をイメージも含めて捉えてコメントしたいと思います。クライエントのこころの病とは、その人個人の個性化過程で重要な意味を持った症状を示しています。そのことについて事例を通して、皆さんと共有し討論出来たらよいと思います。事例に夢や、箱庭、描画などが含まれればよいとは思いますが。べつにこだわりません。何故なら症状そのものがその人のこころの持つつらさの象徴的表現だからです。 事例提供者:長田岳大 ※先着 30 名まで(受付での先着順になります。)

(3)「バウムを生かす事例検討会」 (18 号館 2 階 演習室 2)

講 師 鶴田英也(神戸女学院大学 准教授)司 会 児玉佳子 周知のように、Koch, K が 1949 年に発表したバウムテストは現代の心理臨床の中でも最もよく使われる投影描画法であり、また基礎・調査研究から事例研究まで、非常に多くの研究の対象にもなっています。しかし実際のところ、私たちは日々の臨床において、バウムの恩恵というものを一体どこまで享受できているのでしょうか。 バウムは投影法と言われていますが、この投影法であること自体のうちに、豊かな治療的可能性が秘められていると同時に、逆にそれを損なう可能性も秘められており、そうしたバウムを生かすのも殺すのも、セラピストのかかわりの姿勢に委ねられていると、私は考えています。 この分科会ではまず、そうしたバウムを臨床に生かすためのセラピストの基本姿勢について簡単にお話したいと思います。次に、発表していただく事例の中で描かれているバウムについてのイメージワークをしながら、バウムを事例に生かしていく試みをみなさんと共有したいと思います。 事例提供者:長野真奈(京都女子大学学生相談室) ※先着 20 名まで(受付での先着順になります。) 2. シンポジウム 「心理臨床の基礎と訓練」 (1 号館 4 階 142 教室) シンポジスト 成田善弘(成田心理療法研究室) 横山 博(甲南大学文学部名誉教授 ユング派分析家) 司 会 田中美香(隈病院) 【成田先生より】 心理臨床の基礎となる心理療法をどう学ぶかについて、私自身が学んできた経験を振り返って、また教育やスーパービジョンに携わった経験を踏まえて、次のいくつかの点について述べます。 ①心理臨床家を志す ②文献、書物から学ぶ ③ケース・カンファレンスから学ぶ ④スーパービジョンから学ぶ ⑤患者から学ぶ ⑥師から学ぶ ⑦論文を書く 以上のほかにも、日々生きること自体が心理療法を学ぶことにつながります。自分の人生を誠実に生きてゆくこと、そこで感じたり考えたりすることに自覚的であること、そしてそれを人間理解に結びつけてゆくことが大切であると思います。 【横山先生より】 成田善弘先生と甲南大学心理臨床学会で、このような形でシンポジウムを持つことが出来ることを光栄に思います。私と成田先生とは、個人的な付き合いが特にあるわけではありませんが、人文書院発行の成田善弘・氏原寛編の心理療法についての一連のシリーズに何度も執筆させていただき、私の在籍時代、院合宿にも1度来て頂いた、私の最も尊敬する精神科医の一人です。成田先生は対象関係論で、私はユング心理学が中心でありますが、対象関係論も、ユング心理学もともに治療者とクライエントとの関係性を重視するところでは共通のものがあります。もっとも心理臨床の基礎とは、病めるクライエントの訴えを謙虚に聞き入ることが基本中の基本で、心理療法が決して教育ではなく、クライエントの変容の場所であるということを浮かび上がらせるシンポが出来ることを期待しています。