2013年6月11日火曜日

甲南心理臨床学会第16回大会

Ⅰ.あいさつ

  皆様いかがお過ごしでしょうか。私事になりますが、私は、甲南大学から在外研究の機会をいただいて、平成25年度の1年間、ドイツのフランクフルトにあります、Sigmund Freud Institute(SFI)という研究所に滞在しています。まだ滞在が始まったばかりで、十分状況を把握できているわけではありませんが、本研究所では、精神分析、あるいは精神分析的心理療法、さらには精神分析的オリエンテーションをもった幅広い介入実践に対して、効果の実証研究が盛んに行われています。いわゆるエビデンス・ベーストの潮流に対して、精神分析的アプローチからも対応していこうとする姿勢がうかがえます。しかもすでに10年以上にわたるそのような努力が重ねられているため、その課題は、ある意味当然のこととして受け止められています。
今週出席しましたある講演では、幼児教育から小学校にかけての年齢層の子どもに「生きる力」―具体的にはレジリエンスの概念が使われていました―をつけるための、総合的な教育、養育、予防、治療プログラムが紹介されていました。従来の治療的実践の努力が、問題の階層のうち最も上位にあるもの、つまり症状化して治療の対象になる層に集中して注がれていたのに対し、予防的な介入や、日常の教育、養育活動の質向上に向けた努力が必要という趣旨でした。そこでも、効果評価が重要な課題として取り上げられ、実際そのデータが紹介されていたわけですが、こうした総合的な介入の場合、エビデンスのゴールデンスタンダードであるRCTが必ずしも最適ではなく、質的な評価も含む評価手法が工夫されなければならないとのことでした。具体的には、尺度や検査とともに、教師、養育者などへのインタビューの質的分析による評価が用いられていました。私自身、さまざまの実践に取り組むなかで、効果評価という課題に十分取り組んでこなかったという反省があります。今回の在外研究を計画した際に、この課題に対して今後自分が取るべきスタンスを確かめることを目的の一つとしたのはそのためです。私事ばかり書いてしまい、巻頭言の内容にふさわしくないかもしれませんが、印象が新鮮なうちに書き留めておきたいという思いと、皆様の参考になればという思いから、この機会を借りて書かせていただきました。(森茂起)

Ⅱ.第16回大会案内
  下記の通り、甲南心理臨床学会第16回大会を開催いたします。今大会は、シンポジウムに鑪幹八郎先生を講師にお招きして「エリクソンのヴィジョンと精神分析的心理療法」というテーマで精神分析的心理療法についてご講演いただくことになりました。先生の臨床の基礎にあるものをうかがうことのできる大変貴重な機会です。この機会をより多くの方と共有できるように、特別企画として甲南心理臨床学会の会員以外の心理療法家の方々にも参加の門戸を開くことになりました。チラシを同封いたしますので、職場、またはお知り合いに広くお知らせいただき、皆様お誘いあわせの上ぜひご参加ください。どうぞよろしくお願いいたします。午後の分科会では、さまざまなテーマについて先生方からご講演いただきます。運営の都合上、分科会は午前の受付での先着順とさせていただきます ので、お早めにご来場ください。 なお、本年度は会長の森茂起先生が在外研究のため、甲南大学文学部・福井義一先生が会長代行を務められております。

●○ プログラム ○●

日 程 2013年7月7日(日) 
受 付 10:00~    (1号館4階 142教室前)
シンポジウム 10:30~12:30       (142教室)
総 会 12:30~13:00        (142教室)
分科会 14:00~17:00         (18号館)
本年度ランチセミナーは開催いたしません。昼食は各自でお済ませください。

Ⅲ.シンポジウム・分科会紹介
1. シンポジウム 「エリクソンのヴィジョンと精神分析的心理療法」  (1号館4階  142教室)
講 師:鑪幹八郎(京都文教大学)、司 会:富樫公一(甲南大学)
講師より:最近の精神分析臨床でエリクソンはあまり話題になりません。しかし、私にとっては心理療法の基本枠であり続けております。精神分析的心理療法の基礎にエリクソンの考えをおいておくことは必須と思っております。臨床的な観点から話をさせていただきます。[案内pdf]

(1)「スクールカウンセリングにおける緊急支援」 (18号館3階講演室)
講 師:吉田圭吾(神戸大学・兵庫県SCスーパーバイザー) 、司 会:長野真奈

スクールカウンセラーの現場である公立学校では、日々さまざまな事件・事故が起きている。その中には、自殺や殺人、死亡事故など、子どもや保護者、教師の生死に関わるような重大なものも稀ながらある。また、教師の問題行動、犯罪、逮捕など、信頼していた人の突然の裏切りと感じられる事件もある。そして当事者である子どもや保護者、また教師への信頼が厚いほど、これらの事件は周囲の子どものトラウマとなりかねない。
  子どもにとってトラウマとなるような現実に学校全体が直面し、かなり強い不安にさらされるような事態において、スクールカウンセラーに何ができるのかを考えておくことは、学校現場の危機管理として重要である。
  昨今の報道に表れているように、子どもの自殺事件も少なくない。そのような事態で一番大切なことは、その子どもと関わりのある人々全員が自死遺族であるという視点である。スクールカウンセラーとしてそのような緊急支援の主体である校長を始めとする学校組織に、どのような距離感で関わるのかという問題も踏まえつつ、スクールカウンセリングにおける緊急支援についてみなさんと一緒に考えてみたい。



(2)「ロールシャッハ法の学び方、そして新しい発見」  (18号館2階 演習室1)
講 師:上芝 功博(元東京少年鑑別所所長)、司 会: 山口修一朗
投影法のなかでもロールシャッハ法は大変重要な位置を占めており、これがもたらしてくれる情報は幅広く奥深いといえますが、それだけに、この技法の習得は容易ではありません。
  演者は約50年間この技法を活用しながら知識や経験を積んできましたが、いまだに満足の域には到達せず、臨床における被験者の反応の一部については、それが意味するものの理解に苦労し続けています。つまり、まだ学びつつあるわけです。
  ところが、この苦労に伴って、時には、これまで教科書等で説かれてきた意味(解釈)とは別の、新しいそれを見出すという醍醐味を味わうこともできています。当日は、演者のこれまでの経験から最も重要であると考える、ロールシャッハ法の学びの要点を解説するとともに、見出した新しい知見の一部を紹介したいと思います。

(3)「子どものアセスメント〜支援に繋げるフィードバック〜」(18号館2階  演習室2)
講 師:中谷恭子(兵庫県立光風病院)、企 画・司 会:安藤順子
日々の臨床の中で、子どもの発達について何らかの検査を実施したり、意見を求められたりすることは多々あります。実施した検査から何を読み取り、それをどのように相手に伝えるか?より多くのことをキャッチし、それがクライエントの支援に繋がっていくフィードバックを目指し、みなさん苦慮されているのではないでしょうか。医療現場で長年子どもたちの検査に携わってこられた中谷恭子先生を講師にお迎えして、アセスメントのポイントを再確認する企画を考えました。講義終了後、現場で困っていることや工夫していることなどを参加者のみなさんでシェアしながら議論を深めたいと思います。

(4)「ユングを知らない世代のユング心理学,そして夢を素材として含む事例の検討」
コメンテーター: 広瀬隆(帝塚山学院大学)、司 会:新道賢一  (18号館3階 演習室3)
ユングが1961年にこの世を去り,そして生きたユングを知る分析家もまた帰らぬ人となる昨今,
ユング派というアイデンティティーを何に求めるのか,そして他学派の流れや関連領域の新たな知見をどう取り入れるのかは,ユング派指向的な心理療法家にとって大きな問題です。この事例検討会では,まずユング派,わけてもISAPの動向を踏まえながら,近年のユング派の動向について概観します。次に,臨床場面で夢素材をどのように扱うのか,そしてその臨床的妥当性を何に求めるのか,という難問を踏まえつつ,夢を素材として含む事例を見ていきたいと思います。それと同時に,夢を扱う心理療法家として目を通しておくべき文献の再確認も行おうと思います。参加者ができるだけ自由に自分の思いを表現できるように,20名までの小グループとしたいと思います。事例に触れながら起こってくる自らの思いをシェアする用意のある方の積極的なご参加を期待します。

Ⅳ.参加申し込み
同封の払い込み用紙に、お名前、ご住所等をご記入の上、必要金額を払い込んでください。 入金の確認をもって参加予約とさせていただきます。
なお、必要費用の払込みにつきましては、事務の都合上勝手ながら、6月14日(金)までに 完了していただきますようお願い申し上げます。学会運営の簡略化のため、何卒ご協力よろしくお願いいたします。

本大会は、毎年、(財)日本臨床心理士資格認定協会より、臨床心理士教育・研修規定別項第2条第4号に規定する教育研修機会として承認されており、本年も申請を行うこととしております。例年、本大会に参加された方は受講者として2ポイントを取得できます。

年会費:
大会参加費:6000円
ただし修士課程の大学院生は2000円
年会費:3000円
ただし修士課程の大学院生は2000円